第三者委員会調査報告書を読んで会計と統制の勉強をしてみる【その2:ジャストシステム】

ジャストシステム1 若手会計プロのTips・スキル

第三者委員会調査報告書を読んで会計と統制の勉強をしてみる【その2:ジャストシステム】

 

こちらの記事でご紹介した第三者委員会ドットコム。
会計士・経理や若手会計プロが見るべき情報・ニュースサイトまとめ

今回は、前回の記事に引き続き、その中から報告書を一つ取り上げて、読んでみようと思います。

「会計と統制の勉強をしてみる」と銘打っていますが、特に示唆に富む考察も何もないのでご注意ください。

 

読んでみた調査報告書

今回は、こちらのジャストシステムを読んでみます。

株式会社ジャストシステム | 第三者委員会ドットコム

IT業界の中ではかなり有名な会社なので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

 

どんな不正があったのか?

株式会社ジャストシステムは、ソフトウェアの開発と販売をしている会社です。

「一太郎」や「JUST OFFICE」という名前を聞いたことがある方も多いかと思いますが
日本が誇るソフトウェア開発会社の一つです。

同社は、事業部制をとっており

・消費者向け

・官公庁、医療、教育機関向け

・法人向け

・家庭向け

の4つの事業を展開していました。

今回不正が起きたのは、法人向け事業です。

 

今回発覚した不正は、法人向け事業部の事業部長が、会社に無断でソフトウェアに「返品条項」を付与して販売代理店に売り上げたことのようです。

経営企画室による社内調査により発覚しました。

 

ジャストシステム1

少し補足します。

ソフトウェア会社は販売にあたって、直販に限らず販売代理店を通すことが多いです。

また、販売代理店のことをパートナーと呼び、パートナー限定の契約プログラムやインセンティブプランを提供する販売施策をとることも多いです。

営業の現場では、期末になると、売上を出来るだけ当期に計上したいため、このパートナーにお願いして、在庫を前倒しで持ってもらい、売上の早期計上を狙うこともありますが、パートナーが在庫リスクを負うため、通常は実現が難しいでしょう。

今回の不正の目的は「前倒しによる売上の早期計上」をより行いやすくため、事業部長が会社に無断で返品条項の覚書などをパートナーに付与して、在庫リスクを負わせないようにしたことにあります。

 

調査委員会は何をしたのか

調査委員会は、報道された不正の有無やその実態、再発防止策の提言のために発足され、調査報告を行いました。

 

調査の方法は、以下の7つです。

・資料の閲覧

・役職員や退職者に向けたインタビュー

・デジタル・フォレンジック調査

・取引先(パートナー)への在庫確認状送付

・取引先(パートナー)へ往査し取引テスト

・職員に対するアンケート調査

・監査法人に対するインタビュー

 

ここからは、調査報告書の個人的な見どころをご紹介していきます。

かなりボリュームのある調査報告書なので、大まかなポイントをかいつまみます。

 

販売店商流を使った不正の手口

調査報告書によると、返品条項付取引の販売スキームは以下のとおりです。

①C 事業部の営業担当者がエンドユーザーに営業活動を行い、エンドユーザーから購入の感触を得た時点で、当社がパートナーに対して当社製品の名称・数量及びパートナー名でエンドユーザーに発行する見積書の原稿などを提供

② パートナーは、上記①の情報に基づいてエンドユーザーが購入する見込みのある当社製品をエンドユーザーに対する販売代金から 5%程度を控除した金額で当社から購入

③ 上記①の情報のとおりにパートナーがエンドユーザーに当社製品を販売できなかった場合には、パートナーは、当社に対して当社製品を返品し、代金の返還を求めることが可能

④ 本件販売スキームが実質的にはパートナーから当社に対するファイナンスに相当することを考慮し、パートナーが当社に購入代金を支払ったときから、パートナーがエンドユーザーから代金を受領するまでの期間のみなし金利として、当該購入代金の 5%以上を当社が支払うことを義務化

⑤ 上記③の返品代金及び上記④のみなし金利の支払いは、本件販売スキームにおける次の販売機会において、パートナーが当社製品を当社から購入する代金から控除することにより精算

 

引用:株式会社ジャストシステム特別調査委員会報告書

 

売上代金を金利負担して前借りするようなイメージの取引だと分かります。

 

更なるポイントは、こちらの文言です。

実際には、当初予定したエンドユーザーへの販売が実現しなかった場合でも返品処理が行われることはなく、C 事業部の営業担当者がエンドユーザーの代わりに手配した別のパートナーに対してマージンを載せて転売させることにより、「在庫」としての状況を継続させ、その間、別のエンドユーザーに販売するための営業活動を継続していた。
こうした経緯により、当社は、単一あるいは複数のパートナーを経由して当社製品をエンドユーザーに販売する商流が成立していた。

 

引用:株式会社ジャストシステム特別調査委員会報告書

 

返品条項を付与していたものの、実際に返品が行われることはなく、同じ販売店であるパートナーに滞留在庫を転売させることによって、パートナーの売上を実現させつつ、エンドユーザーである顧客への販売活動を続けていたということです。

 

ここで疑問となるのが

・パートナーはどうやって集めていたのか?

・パートナー間で転売を繰り返せば売価が膨れ上がって売りづらくなるが、そうした在庫の処理や、パートナーへの損失補填はどうしていたのか?

という点でしょう。

 

一点目については、調査報告書にこう記載してあります。

協業の仕組みとして、協業開始から 2 年間は当社が案件を紹介してパートナーに当社製品の販売先を保証し、「在庫保証(6 ヶ月後返品)」といった記載も入れてパートナーの在庫保有期間が 6 ヶ月を超えた場合には返品を受け付ける旨を申し入れてパートナーとなることを勧誘していた。そして、そうした勧誘を受けた企業のなかには、当社から製品を先行して仕入れる際に一時的な資金負担を負うものの在庫リスクを負担せずに売上計上ができることに加え、エンドユーザーへの販路拡大等を狙って当社の関与先パートナーとなる企業が存在した。

引用:株式会社ジャストシステム特別調査委員会報告書

 

パートナー制度に見たて、販売先保証、返品保証という形で販売店開拓を行っていたとのことです。

 

二点目に関しては、顧客には正規の価格で赤字販売したのち

・別の大型案件をパートナーに確約して利益補填

・販売後の導入、保守フェーズのサービス料を値下げして利益補填

などを行っていたようです。

 

 

返品条項付取引の収益認識のタイミングは?

 

本件では、ソフトウェアに返品条項を付けて販売していましたが

返品権付きの製品販売はどこまで、どのタイミングで収益が認識されるのでしょうか。

2018年3月30日に公表された「収益認識に関する会計基準の適用指針」のp.84

「(11)返品権付きの販売」の85項には、こう記載されています。

 

85. 返品権付きの商品又は製品(及び返金条件付きで提供される一部のサービス)を販売し
た場合は、次の(1)から(3)のすべてについて処理する([設例 11])。

(1) 企業が権利を得ると見込む対価の額((2)の返品されると見込まれる商品又は製品
の対価を除く。)で収益を認識する。

(2) 返品されると見込まれる商品又は製品については、収益を認識せず、当該商品又は
製品について受け取った又は受け取る対価の額で返金負債を認識する。

(3) 返金負債の決済時に顧客から商品又は製品を回収する権利について資産を認識す
る。

引用:収益認識に関する会計基準の適用指針

 

(2)の記載には「返品されると見込まれる商品には、収益を認識せず、返金負債を認識する」とありますね。

つまり

×:売掛金/売上

〇:売掛金/返金負債

となり、返品条項が付いた商品は、エンドユーザーに渡るまでは収益を認識できないことになりますね。

 

ちなみに、このような(返品などの理由により)貰える額が確実でなく、変動する可能性のある対価のことを「変動対価」と呼びます。

 

そもそも、なぜ「返品されると見込まれる商品には、収益を認識」してはいけないのでしょうか?

その理解のためには、収益認識基準の基本原則に一度辿る必要がありそうです。

それが「収益認識に関する会計基準」の16項です。

16. 本会計基準の基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又は
サービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識する
ことである。

 

一見良く分かりませんが「企業が権利を得ると見込む対価の額」とあるように

・第三者ではなく、あくまで当事者である企業に対しての対価で

・不確実な「変動対価」のうち、権利を得ると見込まれる額だけを

収益として認識しましょう、という解釈をすれば

今回の返品条項付取引が理解できるのではないでしょうか。

 

結果として本件では、出荷日をエンドユーザーである顧客の保守開始日の前日と推認して売上の期間帰属を修正することとなったようです。

 

 

形骸化してしまった内部通報制度

 

前回のTATERUの例に続き、内部通報制度自体はあったものの、制度が形骸化していたようです。

・通報実績はここ数年で1件のみ

・内部通報制度を認知していない社員が多い

・内部通報制度を知っていても無意味と考えるか、無関心な社員が多い

となっております。

 

経営者としては、下記に再掲するように

内部通報を不正発見までのあるべきルートとして捉えていることもあり

内部通報制度が想定通り機能するためには、企業風土を健全に保つことが必要だということを本当に実感しますね。

 

(再掲)Deloitte 不正リスク調査白書2018-2020

「不正を発覚させるルート」

不正リスク調査

 

さいごに

今回は、ジャストシステムの返品条項付販売に関する不正の調査報告書を読んで

会計と統制の勉強をしてみました。

不正の勉強だけでなく、収益認識基準の良い学習機会になりますので

一度ご覧になってみてください。

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