第三者委員会調査報告書を読んで会計と統制の勉強をしてみる【その3:富士ソフトサービスビューロ】
こちらの記事でご紹介した第三者委員会ドットコム。
会計士・経理や若手会計プロが見るべき情報・ニュースサイトまとめ
今回は、一回目の記事や二回目の記事引き続き、その中から報告書を一つ取り上げて、読んでみようと思います。
「会計と統制の勉強をしてみる」と銘打っていますが、特に示唆に富む考察も何もないのでご注意ください。
読んでみた調査報告書
今回は、こちらの富士ソフトサービスビューロを読んでみます。
富士ソフトサービスビューロ株式会社 | 第三者委員会ドットコム
有名なIT企業である富士ソフトのグループ会社です。厳密にいうと第三者委員会ではなく、社内調査委員会ですね。
どんな誤謬があったのか?
富士ソフトサービスビューロ株式会社は、主にアウトソーシングサービスを提供する会社です。
グループ会社の富士ソフトは、システム開発に強みのあるソフトウエア会社であり、今回の当事者である富士ソフトサービスビューロは
・BPOサービス(企業での文書の電子化やデータ入力、事務局業務を受託するサービス)
・コンタクトセンターサービス(インバウンド/アウトバウンドのコールセンター業務を受託するサービス)
・オフィス・サポートサービス(事務職員やエンジニアの人材派遣サービス)
・ウェブコンテンツ/システムサポートサービス(Webサイトの構築・運用などを支援するサービス)
の4つの事業を展開していました。
今回誤謬が起きたのは、BPO/コンタクトセンター事業です。
今回発覚した誤謬は、コンタクトセンターのオペレーターの業務時間を多重に計上して取引先に請求したことのようです。
取引先の監査部による調査により発覚しました。
少し補足します。
オペレーターは複数の業務を同時並行でこなす形で仕事を行うことが可能な環境でした。
それ自体は全く問題ないのですが、一人が一日に使える時間は一人分なので、タイムカードに記録された一日の出勤時間の中で、それぞれの業務に充てた時間をうまく振り分ける必要があります。
しかしながら、担当していた同じ時間帯の複数の業務にチャージした状態で、時間を多重計上して取引先に計上したことが問題になりました。
更に問題が一点ありました。
本コールセンターのセンター長には「計画席数達成率」(コールセンターの中でオペレーターが業務を開始できる状態にある割合)というKPIが設定されており、これを達成するのが困難な状況にありました。
そこで、実際にはコールセンターにいない欠勤者のIDを使ってログインし、研修中の状態にしておくことで、見かけ上の計画席数達成率を上昇させようとしました。
これらの事象から浮かび上がったのは、内部統制の脆弱性です。
調査委員会は何をしたのか
調査委員会は、報道された誤謬の有無やその実態、再発防止策の提言のために発足され、調査報告を行いました。
調査の方法は、以下の3つです。
・社内関係者へのヒアリングとアンケート
・CRMのログイン・ログアウトレポートの確認と再計算
・その他関連資料の閲覧
ここからは、調査報告書の個人的な見どころをご紹介していきます。
全部ご紹介すると分量が多くなるので、大まかなポイントをかいつまみます。
誤請求金額の総額は2年間で約3億円弱
調査報告書によると、本件の誤請求金額の総額は2年間で約3億円弱にのぼるとのことです。
当委員会は、関係者のヒアリング及び関係資料等の閲覧により事実を確認した。また、Iセンターの誤請求の金額については、欠勤者分等を除いたログイン/ログアウトの情報に基づいて、社内調査チームによる計算を実施した。その金額は 2016 年 11 月から 2018 年 10 月までの概算で 277 百万円であり、誤請求の期間との関係から過年度の決算についても訂正が必要になることが見込まれる。
引用:富士ソフトサービスビューロ株式会社 社内調査委員会報告書
年間250日だとしても、一日あたり60万円増額請求していたことになりますね。
当初は 1 日当たり 10 席程度であったが、多い時には 1 日当たり 60 席を超えることもあった。
とあるので、少なくとも一人頭一日1万円の増額というイメージでしょうか。
単価感から考えても、一人2業務分弱ぐらいの多重計上になるのではと推測します。
同様の誤請求では、NTTグループが回線費用などを約30年間にわたって過大請求を約2億円・過小請求を約5億円の規模で行っていたことが2009年に発覚しています。
こちらと比べても、誤謬の規模感はかなり大きいことが分かりますね。
では、なぜこのような多重計上が、社内のプロセスをスルーしてしまったのでしょうか。
3 システムの運用の誤り、及び業務プロセス連携の欠如
Iセンターのシステムは、1人のオペレーターが複数の業務に対応できる仕様になっており、より効率的に業務を行えることが出来て生産性の向上が図れている。しかし、オペレーターが業務ごとのログイン/ログアウトを正確に実行しないと、全く同じ時間をそれぞれの業務にカウントしてしまい、結果として多重計上となってしまう。
また、売上請求時にログイン/ログアウトデータと出勤簿の照合を行うプロセスがなく、業務運用側と売上請求側との連携が欠如していた。引用:富士ソフトサービスビューロ株式会社 社内調査委員会報告書
スポット業務が多く、運用上のトラブルが発生しかねない状況だったことに加え
出勤簿(タイムカード)とCRMのログイン・ログアウトデータを突合するという重要なプロセスが抜けており、複数業務の実施によって信頼性に課題のあったCRMのログイン・ログアウトデータをそのまま使用できる環境だったということです。
重要なプロセスの欠如ですね。
今回の社内調査委員会では、同様に「信頼性に課題のあるデータを根拠にした売上請求」が他の業務や他のセンターで行われていないかを調査しました。これを「マッピング」と呼んでいます。
結果として
・現業部門が出す記録のみで売上の検収
をしている7つの案件が対象になりましたが、類似の誤請求は発見されなかったようです。
対策としての業務フローの見直し
上記の原因を踏まえて、会社は正確な売上を請求できるよう、業務フローを見直すこととしました。
(2)対策
業務フローの見直しと再構築
①業務フローの中に、ログイン/ログアウトレポートと出勤簿の突合検証 を折り込み、誤請求が発生しないための検証を実施する。
手順は以下の通りとする。
ⅰ)勤怠データ(出勤簿)を確定する(勤怠システム)。
ⅱ)システムのログイン/ログアウトデータのファイルを作成する (CRM)。
ⅲ)両者の突合をおこない、差異をチェックする(出勤簿とログイン/ログアウトデータ)。
また、センター長による「計画席数達成率」の水増しに対応するために
・上長による監督
・内部監査の強化
を対応策として記載しています。
調査報告書では触れられていませんでしたが、TATERUでもあったような目標達成に対する過大なプレッシャーや売上至上主義、というような社内風土の問題は果たしてあったのでしょうか。
さいごに
今回は、富士ソフトサービスビューロの社内調査報告書を読んで
会計と統制の勉強をしてみました。
内部統制を考える良い機会になりますので、一度ご覧になってみてください。
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