大手監査法人で大量退職→監査法人VS経理 どっちがいいの?
週刊エコノミストの特集より。
Big4監査法人の退職者数がここ3年、年間1,000人程度で推移しており、「組織内会計士」の数はここ3年で3倍(1,000人程度)増えている、というトピックが発信されています。
上記の記事によると、原因として
1.東芝問題などから垣間見えた監査の存在価値への疑問
2.不正問題で失脚するパートナーを見て感じた将来への不安
3.働き方改革による仕事へのしわ寄せ(現場の疲弊・納得できる仕事ができなくなった)
というようなことが語られています。
個人的には1.2は分かるとして、3の中でも特に「納得できる仕事ができなくなった」ことを直接の原因として辞める人って聞いたことがない気がしますけどね…
余談は置いておいて、今回は、そんな大量退職で人手不足らしい監査法人と、「企業内会計士」=事業会社の経理、会計士のキャリアとして選ぶならどっち?を考えてみたいと思います。
比べてみる項目はこちら。
・やりがい・成長
・ワークライフバランス
・職場環境
・将来性
・待遇・給料
対象は、20代後半~、ということにしましょう。かなりざっくりですね。
やりがい・成長:それぞれにやりがいがある
やりがい・成長に関してはどちらが優れているというわけではなく、どちらもそれぞれの良さがあります。
監査法人
良い点は
・多種多様な業界のクライアントのビジネスを知れる→業界の幅が拡がる
・一つの会社にいたらあまり見られない、様々な会社の特殊な会計処理の検討ができる→業務の深さがある
イマイチな点は
・基本は監査だけ→業務の幅が拡がらない(監査が出来ても経理は出来るようにならないし、ファイナンスも出来るようにはならない)
など。業務の幅は狭まりますが、ハイレベルで専門的な会計・監査の世界に触れることができて業務の深さがあり、業界の幅があるのが魅力です。
経理
良い点は
・何でもやる→業務の幅が拡がる
・マネジメントに関われる→グループを持つ事業会社なら子会社CFOを目指せるかも
イマイチな点
・会計士唯一の独占業務である監査は経験できない
です。業界の幅は狭まりますが、経理に関すること、場合によってはM&Aなど財務寄りのことまで何でもやる必要があるため、業務の幅は広がります。
また、監査法人上がりの会計士はパートナークラスでもない限り、外様なので大手日系グループ企業のCFOなどに就任することは難しいでしょう。経理でコツコツと上を目指せば、そういったアップサイドを目指せる可能性があります。
ワークライフバランス:総じてホワイト化 ただし、やや経理に軍配か
ワークライフバランスについても、大筋総じてホワイト、だと言えるのではないでしょうか。
監査法人
部署によってはブラックですが、働き方改革によりホワイト化しています。
監査の付加価値向上の要請(KAMなど)と、効率化の要請(PC接続時間制限)の中で人手不足という状況にあえぎ、現場の疲弊がすさまじい…かと思いきや、私の体感では(スタッフ層クラスまでは特に)PC接続時間制限が功を奏しており、「限られた時間の中で出来る仕事をする」というカルチャーに変わってきているという理解です。
ただし依然として、部署によっては働き方改革関係なしのようです。
某法人の某IPO関係の部署では、PCの接続時間制限関係なしなんていう話も…あくまで噂なので悪しからず。
経理
企業によりまちまちだが、基本的には繁忙期を除いてホワイトですね。
経理に転職して監査法人より残業が減ったという話はよく聞きます。
一番の違いは「ゴールデンウィークに休める」ことではないでしょうか。
監査法人に勤めると、ゴールデンウィークは繁忙期のため、ほぼ絶対に休めません。
その代わり6月以降にかけて代休が付与されたりするのはメリットですけどね。
職場環境:ドライかウェットか?
監査法人
アサインベースなのでとにかく自由です。
アサインがなければ一人でボーっと雑務をこなしていても何も言われません。
アサインによって働く人間もガラっと変わり、通勤する場所もコロコロ変わります。
飽きっぽい人や人付き合いもほどほどが良いという人は、監査法人のこういうカルチャーが好き、という声は多いです。
経理
アサインベースではないので、毎日仕事があります。
基本的には長い間同じ人と働くことになり、通勤場所は転勤がない限り一緒です。
チームで長い間時間をかけてじっくり取り組むことが好きな方は、こちらが向いているのではないでしょうか。
将来性:安定性は経理に軍配…?
監査法人
パートナーまで昇進できるのは20%に満たないです。また今後の景気動向によっては、早期退職の可能性もあります。
2010年前後には、大量採用とその後の不景気によって、数百人単位の早期退職が実施されました。このときの対象はパートナー~シニアマネージャークラスだけというわけでなく、スタッフ層も含まれていました。今後の景気の進展によっては、同じような早期退職が実施される可能性は一定程度あるのではないでしょうか。
とはいえ、経理への転職や、独立は可能です。
年次が高くなるほど転職先のバリエーションは狭くなっていきますが、それでも経理への転職や独立は可能というのが実際だと思います。辞めて働き口がない、という話はあまり聞いたことがありません。
監査法人が人手不足の今現在では、業務委託も引く手あまたなので、独立のハードルは低いでしょう。
経理
日系企業の多くは終身雇用前提です。
でも、RPAなどをはじめとしたテクノロジーの発達によって、いつ経理の人員が削減されるかは分からないです。会社の方針によっては、監査法人ほどの可能性はないにせよ、大規模なリストラが実施される可能性はないとはいえないでしょう。
転職は普通に可能、独立は監査法人と比べたらハードル高まるか、という感じです。
転職という点では、経理でしっかりと経験を積めば、転職に困ることはありませんね。事業会社の経理マネージャーを経験されたのであれば、他の事業会社に移っても経理としての価値を発揮することができるため、転職には困らないというのが実態のはずです。
一方、経理の経験を活かして独立というのは、監査からの独立よりはハードルは高まるでしょう。
監査未経験で業務委託を受けられるのか、は正直私には分かりませんが、私の見た業務委託の方で監査未経験の人は見たことがありません。
待遇・給料:実はトントン!?
監査法人
基本給高め、福利厚生なしです。
こちらの記事でも書きましたが
公認会計士を目指すか?民間企業を選ぶか?決めるときに考えること
基本的に監査法人は家賃補助も出ないし、手当もほとんど出ません。
退職金もパートナーにならないとそれなりの額しかもらうことができません。
パートナーになれない場合は、トータルで見ても大手企業の中間管理職といい勝負なのではないでしょうか。
三菱商事クラスとの戦いになると、正直な話パートナーでも負ける人が出てきそうですね。
収入は大まかに言って以下のとおりです。
スタッフ(~4年目):600万前後~
シニア(~8年目前後):800万前後~1,000万弱(残業含む)
マネージャー(9年目前後~):1,000万程度
シニアマネージャー(11年目前後~):1,200万程度
パートナー(15年目前後~):1,500万~3,000万程度
経理
基本給まちまち、福利厚生まちまちです。
外資系企業を除いて、福利厚生は一定程度ありますし、退職金制度も充実しているはずです。
それなりの企業の管理職であれば、年収1,000万前後は行くと思いますので、福利厚生と合わせると、実は監査法人のシニアマネージャーといい勝負?という可能性も出てきますね。
このあたりは人によってまちまちです。
個人的な意見
さて、監査法人と経理を色々比べてみて、やや経理に軍配かな?といった様子ですが…
個人的には、大量採用で人手不足の今のうちに監査法人に入って、監査がどんなものか分かったらサクっと辞めて転職してしまうのが良いと感じています。
先に監査法人に入る理由は2つあります。
・会計士の独占業務であり独立の足掛かりになる監査を経験できる
・監査法人→経理の転職は前職給与が考慮されるが、経理→監査法人の転職は前職給与があまり考慮されない(イチからスタートに近い)
サクっと辞める理由は、監査法人に長くいるうちに現在の傾向が続くと、事業会社のポジションもだんだん埋まってくるはずですし、そうすると今後の転職は難しくなるからです。
大量退職で人手不足の監査法人なら上を目指しやすいのではないか?という考えもありますが、残念ながら監査法人は年功序列の面が強い組織ですので、詰まっている上が大量退職で一気にいなくなる、ということは現時点では考えづらいですね。
手前味噌ですが、転職の選択肢を常に持っておけるように、エージェントや転職サイトに登録しておきましょう。
会計士や経理での転職はこちら。
・ジャスネットキャリア
・マイナビ会計士
他にも、このサイトでは、普段
私が社会人で働きながら会計士試験に合格した経験から
社会人が働きながら会計士試験に合格するための記事や
社会人の働きながら公認会計士試験攻略法:論文では記述を得意にする【論文で得点力を上げる勉強法】
会計士試験がつらい・諦めようと考えている方へ【働きながら受験】
監査だけでなく、コンサルでの経験から
監査法人やコンサルに入ってからの基本的なハードスキルの記事
異業種から会計士試験を目指した経験から
異業種から経理や監査法人を目指す人のための記事
会計パーソン向け映画・動画などのまとめ記事
を書いたりしていますので、ご興味があればご覧になってみてください。
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