LIXIL瀬戸CEO退任騒動で企業法のお勉強をしてみる【指名委員会・会計士試験】
先日、瀬戸氏の電撃的なCEO退任騒動と、潮田氏のCEO就任は記憶に新しいですが
退任人事のプロセスについて第三者の弁護士による調査結果が公表されました。
「潮田氏、指名委に誤解与えた」 LIXIL瀬戸CEO退任巡り
今回は、LIXILの退任人事を題材に、企業法の初歩的なお勉強をしてみようという記事です。
テーマは「指名委員会等設置会社の価値」について。学習の息抜きにどうぞ。
LIXILで何が起こったのか?
何も知らない人のためにまずは経緯のおさらいから。
ざっくりまとめると以下のとおりです。
・LIXILは旧トステムをはじめとした5社が合併して誕生した住宅設備大手企業
・新CEOの潮田洋一郎氏(以下、潮田氏)は、トステムの創業者である潮田健次郎氏の息子
・潮田氏は父の後継者としてCEOに就任する(就任までは紆余曲折あり)
・しかし、更なる適任者として、外部からプロ経営者を招く
・2人のプロ経営者が短期間で解任される
-藤森氏:GE出身の手腕で積極的に海外M&Aを行ったが、買収先の子会社で不正会計のため赤字転落。経営責任を問われ解任
-瀬戸氏:モノタロウ創業者であり一時業績を回復させたが、直近の業績が芳しくなく、また潮田氏との経営方針の対立もあり解任
真偽は置いておいて、経緯がよくまとまっている記事はこちら。
調査結果の公表の原文はこちらをご覧ください。
当社代表執行役の異動における一連の経緯・手続の調査・検証結果について | LIXIL
瀬戸氏の解任にあたって何が問題だったのか?
では、今回の瀬戸氏の解任にあたって何が問題だったのでしょうか?
ざっくり言うと
・瀬戸氏は「必要があればいつでもCEOを退く用意がある」ことを潮田氏にも話していた
・潮田氏は上記を「瀬戸氏に退任の意向がある」として指名委員会で退任議案をかけた
・そのうえで、潮田氏は瀬戸氏に「瀬戸氏の退任は指名委員会の総意」と伝え、退任を促した
ということが起きており、潮田氏が指名委員会、瀬戸氏に誤認を与える行為を行ったことが問題となっています。
具体的には、こちらの調査結果の抜粋をどうぞ。
潮田氏は、2018 年 10 月 19 日に行った瀬戸氏及び共通の知人との会食(以下「本件会食」といいいます。)における当社の経営方針に関する議論や、複数の取締役から瀬戸氏の経営方針等について意見が提示された同月 22 日の当社取締役会を経て、このまま瀬戸氏に当社の経営を任せることはできないと考え、同月 31 日の取締役会に先立ち指名委員会を開催し、CEO 及び代表執行役の交代を提案することを決意したものと考えられる。
本件会食において、瀬戸氏が、「潮田氏が当社の CEO に復帰するのであれば瀬戸氏は退任する」旨の発言をした可能性が高い。
潮田氏は、10 月 26 日の指名委員会での議論を踏まえ、同月 27 日、瀬戸氏に対して、電話で、自ら CEO に就任するのであればいつでも辞めると言っていたが、時期が来たため辞めてほしいと伝えた上で、同月 29 日に瀬戸氏に対して「諸事象を含めて論議した機関決定をくつがえすのは困難」との電子メールを送信している。この点について、潮田氏は、指名委員会で何らかの決定がなされたとは伝えていないと説明している一方で、瀬戸氏は、辞任するにしても 11 月 1 日は早すぎて混乱が生じると反対したが、辞任を求めることは同月 26 日の指名委員会で機関決定された事項であり、指名委員全員の総意であると潮田氏から説明されたため、最終的に CEO から辞任する旨の意思決定をした旨を説明しており、両者の説明には齟齬がある。
引用:当社代表執行役の異動における一連の経緯・手続の調査・検証結果について
そもそも、指名委員会って何?
そもそも、ここで話題に挙がっている指名委員会とは何でしょうか。
一言でいうと、取締役の選任・解任を議論する機関のことです。
今回退任騒動があったのは「執行役」であり、執行役は本来指名委員会で選任・解任を議論する必要はなく、取締役会で決定されます。
LIXILの場合は、慣例として、執行役の選任・解任についても取締役会決議の前に指名委員会で議論を行っていたようです。
ここで注意すべきなのは、指名委員会で出来ることは「取締役の選任・解任議案を決定すること」ことであり、指名委員会そのものに選任・解任の権限があるわけではありません。
LIXILの話とは少し逸れますが、これが今回の記事で伝えたい、企業法の「権限の濫用を防止する」という視点です。
企業法には、こういった「権限の濫用を防止する」仕組みが至るところに散りばめられています。
この視点で企業法を学習すると、暗記系の項目を非常に覚えやすいです。
・株主と会社(取締役)
・取締役と監査役
・取締役と執行役
などなど。
企業法と「権限の濫用の防止」
もう少し踏み込んでみます。
企業法を学習したことのある方には当たり前の話かもしれませんが、株式会社にはいくつかの種類があります。
種類の分け方の一つとして
・監査役(会)設置会社
・指名委員会等設置会社
というものがあります。
指名委員会等設置会社と聞くとややこしいですが、昔は「委員会設置会社」と言われていました。
近年「監査等委員会設置会社」という上記2つの中間に位置する新しい種類が登場したので、それと区別するために、指名委員会等設置会社と呼ばれるようになったのです。
要は
・原則として監査役会があって委員会がないのが、監査役会設置会社
・委員会があって監査役会がないのが、指名委員会等設置会社
です。
では、なぜ指名委員会等設置会社があるのでしょうか。
監査役会設置会社の一種類だけで充分ではないのでしょうか。
それは、一言でいうと、代表取締役の権限の濫用を防止し、経営の透明性を高めるためです。(他にも理由は色々あるのですが)
監査役会設置会社では、取締役の選任・解任の「議案」は、取締役会で決定されます。
(ここも「議案」であるという点に注意。取締役の選解任は株主総会で決まります)
対して、指名委員会等設置会社では、前述の通り指名委員会が「議案」を決定します。
そして指名委員会は3名以上、過半数は社外取締役で構成されていなければならない、という厳しいルールがあります。
社外の人が複数集まって取締役の選解任の議案を決めるのだから、権限濫用は起こりづらいだろう、という仕組みになっているのです。
(一方で、相当数の社外取締役を必要とする指名委員会等設置会社はハードルが高すぎる、という背景で、前述の監査等委員会設置会社が生まれました。)
指名委員会という機関の価値
ここまでで、指名委員会という機関、ひいては指名委員会等設置会社は、権限の濫用を防止する仕組みが備えられていることが分かりました。
ひるがえって、今回のLIXILの退任騒動を見てみると、こうした指名委員会の「権限の濫用を防止する仕組み」が、本来の価値を発揮できていないとも言えるのではないでしょうか。
執行役の解任に関する決議とはいえ、社外取締役を含めた透明性の高い機関で、恣意のない形で、人事に関する議論を行うことが、指名委員会の本来の価値のはずです。
さいごに
LIXILのニュースを題材に、企業法の「権限の濫用を防止する」という視点や、指名委員会について学習してみました。多少は企業法のお勉強やおさらいになったのではないでしょうか。(私も色々と忘れかけていました)
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